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投げ捨てられたタバコ

2004年06月17日

たそがれ時の、山道を走っていた。スポーツスターでは、普通に走っていても、前を走る一般車に追いついてしまう。仕事帰りなのだろう、1.5トン程の、白いトラックである。追い抜こうにも、カーブの連続しているところでは無理だ。しばらく、そのトラックの後について走っていた。

突然、ドライバーが、窓から火のついたタバコを投げ捨てた。

路面に火の粉をまき散らし、吸い殻は後方へ飛んでいった。わたしのバイクをかすめて。瞬間、頭に血がのぼりかける。けんかを売られたかのように、感じたのだ。

タバコを窓から捨てるなど、マナーが悪いにもほどがある。こちらがフルフェイスのヘルメットだったから良かったが、半ヘルであれば危険なことになっていたかもしれない。それでも、わたしは何事もなかったかのように、走った。昔だったら、無理矢理でも前に出て、文句の1つも言ったところだが。

つまらないことに、関わっているヒマはないのだ。こっちは、遊びで走り回っているわけではない。仕事の打合せや、下調べなど、バイクの方が都合がいいから(もちろん楽しいからでもあるが)走っているのだ。わたしに何かがあれば、すぐに家族が飢えてしまう。だから、ムチャはしない。それに、意地の張り合いでは、過去に嫌な目にあっている。

バイク乗りは、身体を張って乗っている。だからこそ、危険には敏感である。ドライバーの大部分は、バイク乗りの感覚を理解していない。だから、平気で幅寄せをしてきたり、目の前にタバコを投げ捨てたりする。トラブルになって初めて、バイク乗りが本気で怒っていることに気付くのだ。大概のドライバーは、こちらが本気で怒っているのがわかると、引くものだ。それでも、ごくたまに引くことを知らない男達がいる。そんな場合は、意地の張り合いだ。最期はつかみ合いになることが多い。

私の場合もそうだった。実は、過去に2回、車のドライバーとつかみ合いになっている。困ったのは、相手が酔っぱらっていて自制の効かない状態の時である。相手はやる気である。わたしもやるしかない。しかし哀しいかな、酔っぱらいである。足元もおぼつかないのだ。シャツの胸元をつかんで、簡単にねじ伏せてしまった。しかし、それでも相手はやる気である。自分がヤクザ上がりであることを強調し、短くなった小指を見せつけ、脅し、さんざん悪態をつき、わたしのバイクを足蹴にしようとする。さすがに、この時は殺意を覚えた。ーーこのまま、後頭部をアスファルトに叩き付ければ、こいつはおとなしくなるーー

そうなのだ。怖いのは、トラブルになることではない。自分の中の、殺意である。不意に湧いてくる、どす黒い衝動。そんなことをすれば、間違いなく人生が変わってしまう。だから、そんな時は深呼吸することにしている。人を傷つけるのは嫌だし、そんなことで人生を変えてしまうのも嫌だ。だから、落ち着こう。クールに、やろう。クールに。

前を走るトラックの、テールランプを見ながら、わたしは考える。こんなことで、瞬間でも頭に血がのぼりかけた、自分が恥ずかしい。いまだにバイクに乗り続けて、子供っぽい夢想ばかりしているわたしだが、それでも、少しは成長したのだろうか。やがて信号が近づいてくる。そこで、すり抜けで一気に前に出て、そのまま走り去ってしまおう。

アクセルを開きながら、心の中で、バイバイ、とつぶやいてみた。

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