雲の底の街
2004年06月10日

昨日の午後の話である。
曇りがちな天気を伺いつつ、ちょっとだけ散歩に出てみた。
民家の裏手から林道を上がっていくと、やがて道はほそくなり、林の中を抜ける山道になる。こんな近所に登山口があったのかと思いつつ、ジグザグに折れる道を辿りながら、息をきらして登っていく。手入れの行き届いた松林である。驚いたことに、まだ6月だというのにセミが鳴いている。にぎやかな合唱を聴きながら、道をどんどん登っていく。やがて松林を抜けて、広葉樹の林になる。さきほどまで、街の喧噪が聞こえていたのだが、もうそれも届かない。眺望の効かない樹林帯である。倒木が朽ちている。道端には、ほたるぶくろが咲いている。遠くの方で、鳥の鳴き声が聞こえる。
なんでこんなところを登っているのか、ふと疑念にかられてしまう。ちょっと散歩のつもりだったのに、ついつい勢いで登ってきてしまった。ここまで来たら、引き返すのは面倒だ。山道を登りきってしまい、帰りは舗装路を下ってこよう。
そうやって、小一時間も歩いたろうか。急に展望が開けた。あたり一面は伐採され、むき出しの山肌である。その先に見えるピークに登り、一息入れる。風が涼しい。眼下には、今さっきまでいた、松本平がひろがっている。
ごちゃごちゃと雑多な色調で、街は雲の底にあった。まるでおもちゃ箱をぶちまけたようだ。ここ信州は、平地が少ない。だから、松本平の少ない平地に、みな寄り添うように暮らしている。あそこに、わたしたちの日常がある。そう思うと、空しいような、愛しいような、不思議な気分になる。沼の底に落ち葉が溜まって、ミジンコが群れている、それとどれだけ違うというのか。わたしたちも1つの現象であると、ぼんやり考える。(それとも修羅であったか。あの宮沢賢治のように)
わたしは、一時休んでから、また歩き出す。天気が崩れる前に、戻らないと。
雲の底の街へと、ゆっくり降りていく。
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